結論から言います。クマ撃退スプレーは、EPA(米国環境保護庁)に登録されている製品から選べば間違いないです。
具体的にはこの3ブランド。
カウンターアソールト CA290/CA230
フロンティアーズマン MAX
UDAP ペッパーパワー 7.9oz
理由は単純で、通販で「クマ撃退スプレー」と検索すると、クマ用ではない対人用の護身スプレーが混ざって出てくるから。2026年8月に国民生活センターが注意喚起を出しています。詳しくは④で書きます。
ただ、この記事で本当に伝えたいのはその先です。
スプレーを買ったところで、遭遇してしまった後の話でしかない。15年ソロキャンプをやってきて、一番効いたのは装備ではなくて「ここはやめておく」という判断のほうでした。
何も持っていなかったソロキャンパーが、どこで怖いと感じて、どこで撤退を決めてきたか。スプレーの選び方と一緒に、そこも書きます。
この記事について クマとの遭遇を確実に防ぐ方法はありません。ここに書いているのは個人の判断と経験であって、安全を保証するものではないです。出かける前に必ず自治体やキャンプ場の最新情報を確認してください。
① 鳴き声だけが聞こえた、丸瀬布の夜
丸瀬布でキャンプをしていた夜、クマの鳴き声を聞きました。
それなりに大きな声。でも夜なので、どこにいるのかが分からない。近いのか遠いのかも判断できない。あの「位置が特定できない」という状態が、想像していたよりずっと怖かったです。
結局、撤収はしませんでした。代わりにやったのが、使わない道具を全部車に積んで、いつでも逃げられる状態を作ること。車を横付けできるサイトだったので、それだけが心の支えでした。
丸瀬布の夜のことは別記事に詳しく書いています。
このとき思ったのが、軽自動車だし、本気で襲われたら車ごとどうにかなるわけでもないよなということ。それでも「逃げ込める箱がある」というだけで全然違いました。
② 北海道のクマ事情は、この2〜3年で変わった
体感だけの話ではなくて、数字でもはっきり変わっています。
北海道新聞「あさってキャンプ」の集計によると、2025年シーズンにクマの出没で閉鎖した北海道のキャンプ場は延べ37施設(2025年11月上旬時点)。場内に出たケースは少数派で、周辺での目撃や痕跡による予防的な閉鎖が大半でした。
注目したいのが月別の内訳です。
- 9月:10施設(最多)
- 10月:8施設
- 6〜7月も相次ぐ
つまり今がまさにピーク。この記事を読んでいる時期が9〜10月なら、一番気をつけるべきタイミングです。

2026年に入っても状況は続いていて、6月には標茶町の虹別オートキャンプ場で利用者がクマ2頭を目撃し、町が当面の閉鎖を決めています。
全国で見ると、2025年4〜11月のクマによる人身被害は230人、死者13人(環境省2025年12月5日発表の速報値)。過去最悪だった2023年度を上回って、死者数は倍増しました。
背景としてはドングリなど木の実の不作が指摘されていて、山に餌がないぶんクマの行動範囲が広がっているようです。
「北海道でキャンプするならクマは当たり前」とずっと言われてきましたが、当たり前の中身が濃くなったという感じ。
③ 正直に言うと、ボクは何も持っていなかった
ここからは格好悪い話です。
唯一の対策が「車横付け」だった

さっきの丸瀬布の話がまさにそれで、装備ゼロ・頼りは車だけという状態でずっとキャンプしていました。
あの夜以降、サイト選びで「車を横付けできるか」の優先順位は明確に上がりました。荷物を運ぶのが楽とかそういう理由ではなくて、逃げ場として。
生ゴミをテントに入れるのは、正解ではないと分かっている
生ゴミは袋に全部まとめて、車まで持っていける状況なら車に積む。これは自分でもいいやり方だと思っています。
問題は車まで持っていけないとき。今は口をしっかり縛って匂いが漏れないようにして、テントの中に入れています。
ただこれは推奨されている方法ではありません。環境省の知床のガイドでは、フードコンテナを使ってヒグマに人の食べ物の味を覚えさせないことが推奨されています。テント内に匂いの元を置くのは、本来は避けるべきやり方です。
じゃあ外に出せばいいのかというと、それはそれでクマを呼ぶ。木に吊るせる環境ばかりでもない。フードコンテナは値段も嵩張り方もソロには重い。
車に積めないときの正解を、ボクはまだ持っていません。 今はリスクを承知の上で「匂いを漏らさない」に全振りしている状態です。ここは正直に書いておきます。
ラジオが使えるのは、寝るまでの時間だけ
クマ対策として「ラジオなど音の出るものを持つ」はよく言われます。鷹栖町のようにキャンプ場側から案内が出ているところもあります。
ラジオ自体は、ソロと相性が悪いわけではないです。ひとりの時間に音があるのは普通に心地いいし、日中や夕方に流しているぶんには誰の迷惑にもならない。むしろソロキャンプの過ごし方としては自然なほうだと思います。
問題は夜遅くまで流せないこと。消灯時間を過ぎてもラジオを鳴らしていたら、単純に周りへの迷惑です。
ここに矛盾があります。一番危ないのは、寝ている間なんですよね。テントの中で無防備になって、こちらからは何のサインも出せない時間帯。その一番音が必要なときに、音が出せない。
今のところボクはここの答えを持っていません。寝るまでの時間帯だけでも音を出しておく、というのが現状の落としどころです。
④ クマ撃退スプレーの選び方
ここからが本題です。ボクはこれから買う側なので、レビューではなく選ぶときに何を見たかを書きます。
通販に混ざる対人用スプレーの見分け方
まず知っておいてほしいことから。
2026年8月25日、国民生活センターが「クマ撃退スプレーの備え方」という資料を公表しました(消費者庁も同時に注意喚起)。ここでかなり重要な指摘がされています。調査対象の製品の中に、クマ用ではなく「対人用スプレー」が混在していたということ。
実際、通販サイトで「熊撃退スプレー UDAP」と検索すると、同じブランドの「護身用催涙スプレー 強盗対策」が並んで出てきます。メーカーはクマ用と対人用の両方を作っていて、検索結果ではそれが混ざるんです。
つまり「クマ撃退スプレー」で検索して上から買う、が一番危ない。
見分ける基準になるのがEPA登録です。EPAは米国環境保護庁のことで、アメリカの連邦政府機関。「EPA登録品」と表示されている場合、有効成分の濃度や噴射性能がこの機関の基準をクリアしていることの証明になります。
日本には熊撃退スプレーの公的な規格が存在しないので、現状ここが唯一の分かりやすい基準です。逆に言うと、EPA登録の表記がない製品は「本当にクマに効くのか誰も保証していない」ということ。
購入前にこの4つを確認してください。
- 「EPA登録」「EPA認証」の明記があるか
- 「熊撃退」「ベアスプレー」と書かれているか(護身用・防犯用と書かれているものはクマ用ではない)
- 「正規輸入品」の表記があるか(並行輸入品・模造品に注意)
- ヒグマ対応か
価格だけで選ぶと事故ります。
ツキノワグマ用はヒグマに効くのか
よくある疑問だと思います。
結論としては、EPA登録品であればヒグマ・ツキノワグマ双方に対応しているとされています。EPAの基準はもともとグリズリー(ヒグマの一種)を想定して作られているので、北海道でもそのまま使えます。
気をつけたいのは、EPA登録のない国内向け製品で「ツキノワグマ用」と書かれているもの。北海道で使うなら、種別表記よりEPA登録の有無を見たほうが確実です。
EPA登録済みの3ブランド
ボクが候補にしているのはこの3つです。まだ買っていないので使用レビューではなく、調べて絞り込んだ段階の話として読んでください。
| 製品 | 容量 | 噴射距離 | 噴射時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| カウンターアソールト CA230 | 230g | 約9.6m | 約7秒 | 日本で最初に流通したとされる定番。研究者や山仕事のプロが長年使ってきた実績 |
| カウンターアソールト CA290(ストロンガー) | 290g | 約10m | 約9.2秒 | CA230の約25%増量版。噴射時間が2秒以上長い |
| フロンティアーズマン MAX | 234mL | 12m | 約6〜7秒 | モンベル取扱。実店舗で現物を確認して買える |
| UDAP ペッパーパワー | 225g(7.9oz) | 約9〜11m | — | 濃い霧で「面」を作る設計。ホルスターが付属。創業者自身がグリズリーに襲われた経験から生まれたブランド |
※数値はいずれもメーカー計測(無風の室内実験)の値です。屋外では風向きや気温で変わります。最終的には手元の缶に印字されたラベルが正。
カプサイシン濃度はどれも2.0%前後で、これはEPAが許可する上限。つまり成分の強さで差はつかないと考えていいです。
もうひとつ、スペック表に出てこない違いが噴射機構。国民生活センターの調査でも、トリガー式とボタン式が混在していました。とっさに使えるかどうかが全てなので、可能なら握ってみて選びたいところ。モンベルのような実店舗で現物を確認できるのは、この点で強みになります。
カウンターアソールト CA230
カウンターアソールト CA290
フロンティアーズマン MAX(モンベル)
UDAP ペッパーパワー 7.9oz
ボクがどう考えて絞ったか
距離を取りたいならフロンティアーズマン MAX。12mは今回調べた中で最長でした。
噴射時間で選ぶならCA290。約9.2秒というのは、外して撃ち直す余裕があるということです。実際、2026年3月に積丹半島の兜岬でヒグマに襲われた登山者は、突進にスプレーの噴射が間に合わず半ば死を覚悟したそうです(最終的にクマの気まぐれで無事でした)。構えていても間に合わないことがある以上、やり直しがきく時間には価値があります。そのぶん290gと重いですが。
とっさの遭遇を想定するならUDAP。狙って当てるのではなく、霧で壁を作るという発想。暗闇でテントから出た瞬間みたいな、狙いを定める余裕がない場面を考えると、この設計思想はソロにかなり合っている気がします。
ボクは今のところUDAPかCA290で迷っています。理由は「狙えない状況」を前提に考えたいから。丸瀬布の夜みたいに、どこにいるか分からないところから始まるので。
買う前と買った後に気をつけること
有効期限は思ったより短いです。モンベルが扱うスプレーの有効期限は製造から3年ですが、輸入に時間がかかるため、購入時点でおおむね残り2年半程度になっているとのこと。買ったら3年使えるわけではないので、買った日付と缶の期限をメモしておくのが現実的です。期限切れは噴射圧が落ちて、いざという時に飛ばない。
航空機への持ち込みは禁止されています。道外から来る人は現地調達か事前配送が必要。知床自然センターではクマスプレーとフードコンテナ(容量約2Lほど)のレンタルをやっていて、しかも2026年春から、クマスプレーをレンタルした人に山岳遭難対策発信機「ココヘリ」が無料で貸し出されるそうです。事前予約は受け付けていないので数に限りはありますが、飛行機で来る人には現実的な選択肢。
置き場所も決めておく。 環境省の知床のガイドでは、就寝中もすぐ使えるよう常に傍に置くことが推奨されています。ザックの底に入れていたら意味がない。買う前から、どこに置くかまで想定しておきたいところです。
⑤「ナタで戦う」を考えて、やめた話
余談ですが、同じことを考える人がいるかもしれないので書いておきます。
クマ対策を考え始めたとき、最初に思いついたのが長めのナタを買うことでした。道産子からしたら馬鹿げた発想だというのは自分でも分かっています。それでも、刃物を持っているというだけで安心感がある。理屈ではなくて、完全に感情の話です。
まず考えたのは「そもそもクマに刃物なんて刺さらないのでは」ということ。毛皮も脂肪も厚いし、と。
調べたら、これは間違いでした。
2023年、渡島管内福島町の大千軒岳で、消防署員3人がヒグマに襲われた際、反撃してナイフで首付近を刺し、それが致命傷になったとみられるという事例があります。後日、道と道立総合研究機構などが現地調査を行い、クマの死骸の首付近に深い刺し傷があることを確認しています。
刺さるんです。でもよく読むと、条件がまるで違う。3人いて、首という急所を刺せていて、それでもその場では止まっていない(逃げたあとに死んだ形)。しかも同じ個体が、この襲撃の前に別の登山者を襲って死亡させたとみられています。
3人がかりで首を突いてなお止まらなかったものを、暗闇で、寝起きで、1人で、急所を狙って刺す。成立する前提がひとつもないです。
刺さらないから意味がないんじゃない。刺さっても止まらないし、ソロで急所を狙える状況がそもそも存在しないから意味がない。
決め手になったのは、公的機関が刃物を一度も挙げていないこと。環境省も北海道も自治体も、推奨しているのはクマ撃退スプレー・フードコンテナ・携帯式電気柵・音の出るもの・出没情報の確認です。刃物は出てきません。「刃物がクマに通るか」を検証した公的な実験データも、探した範囲では見つかりませんでした。対策として数えられていないものを、自分だけ対策として数えるのは危ないなと。
ちなみに銃刀法では、刃体6cmを超える刃物の携帯は「業務その他正当な理由」がある場合に限られます。薪割りに使うなら正当な理由として通りますが、「護身用に持ち歩いている」と言った時点でグレーになる。この意味でもおすすめしません。
結局ナタは買うことにしました。でもあくまで薪割りのためです。
⑥ でも一番効くのは、キャンプ場選びだと思っている
ここが、この記事で一番言いたいところです。
装備は「遭遇してしまったあと」の話。遭遇の確率そのものを下げるのは場所選びで、こっちのほうが圧倒的に効きます。
ボクが怖いと感じる条件
- 近くに避難できる場所がない(車を横付けできない、管理棟が遠い)
- 人が少なすぎる(貸切は嬉しいけど、クマ的には最悪)
- 森が近い
- 事前に出没情報が出ている
特に最後。出没情報が出ているキャンプ場には行きません。場所を変えます。 楽しみにしていた予定でも変えます。

逆に安心できる条件
- 柵で囲われている → 星に手の届く丘キャンプ場(上富良野)はこのタイプで、安心感が違います
- 人が多い
- 入口が1箇所しかない → 丸瀬布は橋が入口なので構造的には守られている形
ただし丸瀬布については注意が必要で、裏に山があるので油断はできない。入口が1箇所でも、山側から降りてくれば関係ないです。実際にボクが鳴き声を聞いたのもここでした。
「入口が1箇所だから安心」は、あくまで人の動線の話であってクマの動線の話ではない。ここは混同しないほうがいいです。
電気柵は効く。ただし「自分で張るもの」ではない
調べていて一番面白かったのが携帯式電気柵です。環境省の知床のガイドでも、テントにヒグマを近づけない工夫として推奨されています。
効果は実証済みと言っていいです。国設知床野営場には防鹿柵と一緒に電気柵が張られていますが、電気柵がなかった頃は頻繁にヒグマが目撃され、宿泊者を避難させたり、草藪に潜んだヒグマと攻防を繰り広げたりしていたとのこと。ウトロの街も7000Vの電気柵が約7kmにわたって囲っています。
農業用なら乾電池式も普通にあって、単一乾電池で出力7600V、最大電線長400m(2段張りで周囲約200m)といったセットが市販されています。電源のない場所でも使える。
じゃあソロキャンパーが買えばいいのかというと、ボクは違うと思いました。
- メンテナンスが命綱。知床財団の話として、倒木や葉っぱが電線に触れるとそこから電気が逃げて、いざという時に効果を発揮しなくなるという指摘があります。夏は定期的な草刈りまでして維持している
- 張ったのに効いていないという状態が一番危ない。芝生のサイトに夜だけ張って朝まで漏電なしで維持できるか、かなり怪しい
- キャンプ場は公共の場。隣のサイトの子どもや犬が触る可能性があるし、そもそも無断で張っていいものではない
- 農業用は畑を囲う前提なので、設営の手間も重量もソロの装備感と合わない
つまり電気柵は、自分で持ち込む装備ではなく、持っているキャンプ場を選ぶための基準なんだと思います。
これって結局、柵で囲われた星に手の届く丘を選ぶのと同じ発想です。「クマ対策をしているキャンプ場かどうか」をレビューの見どころにしていくというのが、ボクがこれから変えていくところ。
「静かな場所が好き」との折り合い
ボクはもともと人がいないキャンプ場を求めて動くタイプなので、この基準は自分の好みと真正面からぶつかります。
内向型でソロをやっていると、「誰もいない」が最高の条件になる。でもそれはクマ的には最悪の条件でもある。
だから今は、人の少なさと安全のバランスをその都度考えるようにしています。完璧な場所はないので、どこを取ってどこを諦めるかという話でしかないです。
⑦ 出発前に確認する情報源
- 自治体の公式サイト:鷹栖町のようにヒグマの出没情報やお願いを出している自治体は多いです
- キャンプ場の公式サイト・SNS:閉鎖情報は基本ここが一番早い
- 北海道新聞「あさってキャンプ」のキャンプ場からのお知らせ:北海道内のキャンプ場の閉鎖・営業情報がまとまっていて便利
予約不要のキャンプ場ほど、行ってみたら閉鎖していたという事態が起きます。無料・予約不要の場所こそ、出発前の確認が必要です。
⑧ まとめ:命あってのもの
整理するとこうなります。
| 優先度 | やること | ボクの現状 |
|---|---|---|
| 1 | 出没情報の確認・場所を変える判断 | やっている |
| 2 | 避難できるサイトを選ぶ(車横付け) | やっている |
| 3 | クマ対策をしているキャンプ場を選ぶ(柵・電気柵) | これから基準に入れる |
| 4 | 匂いの管理 | 途中(正解が見つかっていない) |
| 5 | クマ撃退スプレー(EPA登録品) | これから買う |
| 6 | 音を出す(ラジオ) | 寝るまでの時間だけ。就寝中は手なし |
| — | 刃物 | 対策にはならないと判断 |
スプレーは買います。EPA登録の3本から選べば、少なくとも「効かないものを掴む」ことはない。
でも15年やってきて思うのは、装備で解決できる部分は思ったより少ないということ。一番効いているのは「ここはやめておく」という判断のほうでした。
キャンプは自由だけど不自由で、完璧な場所も完璧な装備もないです。どこまでリスクを取ってどこで引き返すかは、人それぞれ違っていい。
ボクの撤退ラインは「出没情報が出ていたら場所を変える」。命あってのものだと思っているので、ここは譲らないつもりです。
あなたの撤退ラインは、どこですか。